山本氏は言う。「一住宅=一家族」という住み方は今の社会を混乱させていると。「一住宅=一家族」とした住のシステムが、「共同体内共同体」という従来の枠組みを崩壊させ、掴みどころの無い国家と直接家族が繋げられていて、その中間部分(人と国家の間)がすっかり抜落ちてしまった現代に、再度中間部分を構築する手立てはないか、構築することができればもっと社会は良くなる。それには建築の力が必要なのだと力説する。
どのようなモデルができるのか、案の具体化を試みるために若手建築家3人に「400人が住む地域社会圏モデル」という同じテーマの構想を考えてもらい、それぞれの評価と地域社会圏の今後の模索を行ったのである。都心に「山」と「大地」をその地域社会圏と見立てて提案した、長谷川豪案。都心郊外に場所設定し、古代ローマの都市をモティーフに地域社会圏と見立てて構築した、藤村龍至案。最も地域的危機に瀕する中山間地域を敢えて選定し地域社会圏モデルを創出した、中村拓志案。これらの案を巡って、建築家原広司氏、思想家の東浩紀氏、経済学者の金子勝氏と本人たちが討論する。可哀想だったのが、長谷川案。案を前にしての討論で、山本氏の師匠である原広司氏にメッタ討ちにされる。それでもひるまない若干30代の建築家の度胸には参った。やはり、それだけの度量はあるんだと思った(笑)。3人様々だが、希望の若手建築家には間違いないだろう。その後、建築史家の藤森照信氏、建築家伊東豊雄氏、山本氏3者の講評と続く。
巻末には、建築家が考えなければいけないことを建築家自らが放棄している実情を以て建築家を戒める。敷地の内側には目を向けても、その外側には目を向けない。外側を考える思考が劣化してしまっている。誰のために誰がこの建築をつくるのか。もっと社会に目を向けよと言わんばかりだ。ほんとうに痛い言葉である。我々末端の小さな地域で活動を続ける建築家にとっても無関係であるとは言えない事実を、日常目の当たりにしている。むしろ中村拓志が出した問題提起を含む案のように、この地域圏においては日々直接的に関係する物事として再認識しなければならないのだ。社会とは何か?住まいとは何か?社会において建築が果たす役割とは?社会という枠組みにおいて建築家は何をしなければいけないのかを改めて考えさせられた一冊である。 猿渡 浩孝
2010.04.08

今月の一冊

地域社会圏モデル 建築のちから